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凍結中のサイト「雪見酒girl's talk(http://loveasgard.yukimizake.net/)」の続編など。 聖闘士星矢アスガルド編、黄金、女の子中心。捏造多め。ノマカプ推し。
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マイナーカップル氷河×絵梨衣です。
絵梨衣ちゃんは、氷河を、平仮名で「ひょうがさん」て呼んでる気がしてます。
壮さんの声、超かわいい。


この話は絵梨衣ちゃんの成長物語で、ひょうがさんは王子様ポジションなんだけど、以前書いたものを読み返したら王子も成長してました。
絵梨衣が、ナターシャとミツマサの関係を崇高な男女の愛と訴えてもあっさり否定してるし。
否定というか、「マーマは愛人ポジションに納得していたけど、自分の恋愛でそれはナイ」みたいな。
自立ってこういうことだよね。親を盲信するわけでも、見下すわけでもなく、違う人間なんだってことをまんま受け入れる…みたいな。



Ωでは三十路すぎてもマーマひと筋。
公式って時に残酷だね…。




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お知らせ……というか、ひとりごと

数年ごとにぶりかえした星矢熱。
サイトを閉鎖しなくてよかった。

無印星矢は、いつでも美しい。
前世紀の少年漫画らしい熱血さと、神話的な荒唐無稽さ、70年代の少女漫画に通じる絢爛豪華さのさじ加減が絶妙すぎて、すごいと思う。色褪せない。
手入れの行き届いたヨーロッパの古城の風格。

新シリーズや派生作品群は、その周辺に建つ観光施設や土産物屋的な感じかな。




春に覚醒




 五老峰の大地にすみれが咲く頃、聖戦を戦い抜いた男が目を開いた。
 優しい幼なじみが、ホッとした笑みを浮かべている。彼女の髪は、こんなにも黒かっただろうか。ゆっくりと手を差し出すと、家事で荒れた小さな両手が包み込んできた。
「紫龍! 目を覚ましたのね!」
 黒目がちの大きな瞳に、大粒の涙が浮かんでいる。
「春麗……」
 何を伝えたらいいのだろう。言葉が見つからない。
 胸に倒れ込んできて「しりゅう、しりゅう」と泣き崩れる娘が、ただ愛しい。
 紫龍は彼女の髪を撫でながら、ふと隣の寝台を見た。
 堂々とした体躯の、若々しい老師が眠っている。
 紫龍が老け顔で老師が童顔だから、いっそ紫龍の方が年上に見えるこの状況、どう説明しよう? 
「春麗。隣にいる御方なのだが」
「ええ。老師ですってね」
「えっ」
 豆鉄砲をくらったような顔の紫龍に横目に、春麗は涙声でこたえた
「あなたたちを連れてきた人が、教えてくれたの」
「俺たちを連れてきた人――?」
「なんて言ったかしら。フランス人みたいな、斎場みたいな名前の人」
「フランス人? 斎場?」
 紫龍の脳裏を駆けめぐるは、水瓶座のカミュに、蜥蜴座のミスティ。それからなぜか辰巳。
 自分と老師をここにつれてくるという気遣いが、可能性としては辰巳が一番高い気がする。
 だが、疑問だ。辰巳なんて斎場あったかな。ていうか、辰巳とフランスつながらないし。
「思いだしたわ。シオンヌさん!」
「……シオンだ」
「あら、お知り合い?」
「そりゃもう。前の教皇だし」
「あら、前教皇ってお亡くなりになったんじゃなかったの?」
「いや、その」
 そこから説明スタートか。覚悟を決めた紫龍に、春麗は流星拳のようなスピードで世間話をはじめた。
「たしか、老師と同じ年だったのよね。今までお亡くなりにならなかったコト自体が不思議だわ。おサガさんて方に殺されたって聞いてたけど、ちょっと怪しいわよね。そこまで長生きしていたら、ちょっと肩を叩いたらぽっくりいっちゃったかもしれないでしょう? そこをおサガさんが責任を感じて教皇になりすましていたとか。ほら、おサガさんってうつ病を患ってアテナを殺そうとなさったのよね? うつ病になる方って責任感が強いみたいね。当時は沙織さんだって赤ちゃんだったものね。赤ちゃんのお世話と男の子9人の育児と、老人介護じゃ重労働だわ。心配だわ。おサガさん元気?」
「春麗……」
 だれだ、このガセネタを春麗に吹き込んだのは。
 体力的にしんどくて生返事すらできない。
 そんな生真面目な紫龍の横で、「ふぉふぉふぉ」と聞き慣れた口調の若い声が笑いかけてきた。
「おサガさんは元気じゃろうよ。今では、チビたちも大きくなったでな。みんな立派に成人して、おサガさんの片腕として働いておる」
 18歳の青年に若返ってしまった老師はそう言うと、長い体躯をくの字に丸めてヒーヒー笑った。
「老師!」
「まぁ、目を覚ましていらしたのね!」
「うむ。ちょっと声をかけるタイミングがわからんくての」
「とにかくまぁ、お家騒動は終わったのね? よかったわ。じゃあ、おサガさんはアイオロスさんとよりを戻したのね。聖域も安泰ねぇ」
 どんな安い設定の昼メロだ。
 つうか、おサガさんて誰だ。
 大家族の嫁かなんかか?
 のほほんと勘違いを貫く春麗に、訂正しない老師。
「ところで春麗。昏睡しておったわしらの世話を、一手に引き受けてくれていたのじゃな。大変じゃったろうに。ありがとう」
「そんな。当たり前のことをしただけです。でも、もう戦いはダメですよ?」
「ほっほっほ」
 目頭をそっとおさえる春麗に、紫龍は時の流れを見た。
 自分が聖衣を得て日本に発った時、春麗は13歳の少女だった。先端が紅色に染まったばかりの蕾のように可憐だった春麗。
 今は、スラリと背が伸びて、気持ち面長になったようだ。黒々とした髪は毛先が痛んでおり、それをひっつめているから余計に疲れて見える。
 だが、美しい。
 疲労の色が、年頃の娘らしい色香を醸しだすなんて。
 
「ところで老師。ずっとお風呂に入ってませんよね。お背中、流しますわ?」
「うむ」
 ムクッとおきあがる老師(18歳)と、手桶を準備する春麗。
「ちょっちょっ……」
 あわてて身を起こす紫龍。
「あら、紫龍もお風呂に入りたいの? 待っててね。老師が先よ」
「ほっほっほ。年功序列じゃ」

 いやいやいやいや、そうなんだけど、そうじゃなくて。
 
「老師も手足が伸びたのですから、ご自分でなされたら良いかと思うのですが」
 精いっぱいの老婆心は、こともあろうに春麗に一蹴された。
「やあねえ、紫龍、ヤキモチやいてるの? 今さら何をおっしゃるやら。ねぇ、老師」
「ほっ。紫龍も若いの」

 夕陽に向かって走り出しそうな若者に、んなこと言われても。

 引き止める術を失った紫龍は、ぽかーんとふたりを見送った。
 老師は老師だから精神的には老人というか仙人に近いんだろうが、ビジュアル的に納得できない。

 紫龍はもういちど目を閉じた。
 そして、そのまま気を失った。
 これは夢だ。老師が脱皮した夢。真に目を覚ましたときは、老師は間違いなく、老人なのだと……。





ダウンタウン☆クリスマス



 商店街の福引きが当たった。
 一等 ハワイ旅行ペアで。
 ただし、15歳以下の方はチケット代金分の商品券をプレゼント。

「というわけで、寄付にきました」
 あからさまに「15万じゃ、買えないだろ」って量の本を大型ハリヤー山積みにして、城戸沙織がやってきた。星の子学園にやってきた。
 ハリヤーを見に来た子供たちは、大喜びだ。
 窓口担当の美穂は、ちょっぴり頬がひくひくした。

 好意はありがたい。
 寄贈はもっとありがたい。
 特に書籍は、何冊あってもありがたい。

 だが、美穂の脱力を煽るのは、そこではない。。
 買い出しをお願いした星矢がなぜ帰ってこなくて、なぜ沙織が来たのか。
 そしてなぜ、アポナシで大量の本がセットなのか。

 クリスマスの準備と平行して、こちとら大掃除の最中である。
 そして、あいにく図書室はまだ手つかずだ。
 埃も払わずに新しい本なんて入れたら、もう、夜中に泣きながら仕分けするしかない。
 だが、子供たちは多目的室に運ばれた本をとりかこみ、「わーい」と包みをやぶりまくった。

 星の子学園の蔵書は、学校や図書館からの寄贈品がほとんどだ。あたりまえだけど、古くて黄ばんでいる。
 だから、新品の本だ! 背表紙がついてる! ってだけで、ワクワクドキドキうきゃー♪ってもんである。
 しかも、「怪傑ゾロリ」シリーズや「怪談レストラン」シリーズといった、市井の小学生に大人気のシリーズを既刊分全て揃えるとか、良家のお嬢様にあるまじきナイスチョイスだ。
 もちろん、もっと小さい子用に「よるくま」や「バムとケロ」「こぐまちゃんシリーズ」あたりもぬかりない。
 美穂が密かにはまっている長新太の作品もどっさりこ。

 長年子供たちを世話してきた美穂が思うに、子供ってほんとうに本が好きだ。
 ケンカしたり、思うようにできなかったり、癇癪をおこしたり、いじわるをする子を膝に乗せて本を読んであげると、すーっと落ち着く。世話をする美穂も、クールダウンできる。
 じっとしていられない体質の星矢だって、星華が朗読を読み始めたら、つつーっとやってきておとなしく聞いていた。
 心から嬉しくて、楽しくて、次のページをめくりたくてわくわく! って笑顔たちを見せられたら、かわいくてほだされちゃって、やっぱり怒るに怒れない。

 図書館の掃除なんて、この子たちが最新書籍に夢中になってる間にささーっとやってしまえばいいのだ。
 美穂はひとり、心の中で誓いの拳をにぎりしめた。
「あ。ところで、星矢ちゃんはどーしました?」
「ツリーを頼まれたから、アスガルドまで伐りに来ると言っていました」
「なんでアスガルド?」
「北海道で充分ですのに、そそっかしいですね」
「……そこも、違う」
 ガッツがしぼむお嬢様のボケが炸裂。
 どうしてこのふたりは、お互いのボケにつっこむということをしないのだろう。
 ボケたらボケっぱなしというか、お互いボケに気がついていないというか。
 ある意味、ベストカップル。
 巻きこまれるこっちが迷惑だ。
 美穂はしばし放心したが、沙織の「用件がすんだのに帰りたくなさげな風情」に気がついてしまった。
 沙織お嬢様はキライだが、淋しそうな人を放っておけないのが美穂の性分である。
「お嬢様」
「はい」
「お暇ですか?」
「あ、はい。でも」
「じゃ。お掃除を手伝ってください。子供たちが本を見ている隙に、図書室を掃除してしまいましょう」
 お付きの辰巳が、ギロリと美穂を睨んだ。
 沙織お嬢様に向かって掃除をしろとは、なんたる狼藉とでも言わんばかりだ。
 だが、美穂は平気だ。沙織はもっと平気だ。
「辰巳、ホームメイド協会に電話を。では美穂さん、絵梨衣さんを呼んでお茶にしましょう。クリスマスパーティの計画をたてませんか?」
 お掃除はプロにまかせて、にっこり主導権を握る沙織。
 背後の辰巳が、ニヤリと笑った。
 美穂は口の端をひくひくさせながら微笑み、肩を落とした。

 このお嬢様のとんちんかんな親切は、これからもきっと続くのだろう。
 星矢の故郷が、この星の子学園である限り。

 携帯電話をピコピコやっている辰巳を置き去りにして、沙織をキッチンに案内した。
 応接間じゃなくてキッチンにするあたり、我ながら失礼な対応である。だけど、お楽しみ会のプログラムはここでお菓子を食べながらと相場が決まっている。
 なぜなら、応接間にお菓子を用意すると、子供たちが嗅ぎつけてくるからだ。そしておこぼれをもらえなかった子供が号泣する。
 その点、キッチンならば10歳以下立入禁止。美穂たちのお菓子を横取りされる可能性が下がる(ゼロとは言わない)
 沙織も、嬉しそうだった。
 素手で本を抱きしめていた手が、まだ白くかじかんでいた。
 ここに来るときの沙織は、意識して手袋をしない。ドレスも着ない。彼女なりに、汚れてもよさげな、子供たちにとけ込める服を、選んできていると思う。すっごい高いんだろうけど。
「ココア、用意しますよ」
「まぁ、嬉しいわ。ご馳走になります」
「安物ですよ。手、温めるだけにしたら?」
 安物だけど、美穂にとってはリラックスタイムの大切な友だ。
 牛乳をレンジでチンなんて、絶対にしない。
 ココアの粉末は丁寧にお湯で溶いて、沸騰しないように温めたミルクと混ぜて、お客様用のブランデーをほんの一滴。キッチンに、冬のにおいが満ち満ちた。
 
 沙織はというと、こんな風に気が利く美穂が大好きだ。
 美穂にとっては大迷惑という自覚もなく、『今は片想いだけど、絶対に友達になってやる』、と誓っているのだった。







アルねこ



 
アルベリッヒが失踪した。
彼の館にも、ワルハラの個室にも、いない。
気怠そうに本を読んでいた図書室には、赤毛のネコが暖を求めて寝そべっているばかりだ。

だが、ジークフリートは知っていた。
気がついてしまったのだ。
この赤毛の、極めて目つきの悪い、腹毛真っ白の、小さなネコが、アルベリッヒだということに。


「て、見たまんまアルベリッヒですわね」

机に本を広げ、爪でページをめくっている怪しげなネコを、ヒルダが優しく見おろす。
ネコは賢そうな目でヒルダを、そしてジークフリートを見上げ「ニャア」と鳴いた。
「まぁ、お返事が上手。おりこうさんですね」
ジークフリートはというと、ヒルダの背後に控えて黙っている。
基本、ジークフリートは寡黙だ。ヒルダに意見する立場ではないと、身をわきまえている。
だがこの時はばかりは違った。ドン引いて、言葉を失っていただけだ。

たしかに、このネコはどうにもこうにもアルベリッヒだ。
猫であることと、皮肉を言わないことを除けば、間違いなくアルベリッヒだ。つうか、こんなに真紅な猫なんか、見たことがない。
第一、ネコは本を読まない。
それも、怪しげな黒魔術やら疫病学やら。そんなものを読む輩は、アスガルド広しといえ、アルベリッヒだけだ。
(呪われたのだろう)
ジークフリートは声には出さず、合点した。
(ニーベルンゲンリングに支配されたヒルダさまを利用して、この世を征圧しようとした男だ。おおかた、罰があたったに違いない)
しかしヒルダは、そうは思わなかったらしい。
白くほっそりとした手でネコを抱き上げ、極上の微笑みを浮かべた。
「それにしても、汚れてますね。そうだわ。一緒にお風呂に入りましょう」
ジークフリートの反論を聞く前に、ヒルダはダッシュで逃げ出した。


ネコは普通、水が嫌いだ。風呂なんて、もってのほかだ。
だが赤毛のネコは、なみなみと湯が貼られた浴槽にぷかーんと縦に浮いて、まんざらでもない様子だ。
「では、失礼しますね」
石鹸で身を清め、長い髪をアップにした乙女が、浴槽をのぞき込んだ。

「全く、迷惑な話ですよ」

ネコがしゃべった。
それも、魅惑の中原ボイスで。
迷惑そうに鼻を鳴らすネコに、ヒルダは満面の笑みを向けた。

「まあ、やっぱり喋れたのですね」
「やっぱりって」
「喋るんじゃないかなぁと、思ってたんです」

 緑色の瞳が、ギロリとヒルダを睨んだ。
「あんたが仕組んだんですか?」
「まさか」
 ヒルダは、ニコニコしている。
 気がついたらネコになっていた経過については、本気で知らなさそうだ。
 アルベリッヒは舌打ちした。
「しもべの前で、全裸になる女君主がいますか。破廉恥な」
「そうでしょうか?」
「オレだって男ですよ?」
「いいじゃありませんか。ネコですもの」
「あんたはよくても、こっちはよくないっ!!」
 アルベリッヒは、ぷいと背中を向けた。
「アテナにお聞きしたんです。気が合わない部下とは、お風呂に入るのが一番ですと。裸のおつきあいが、最も効果的ですと」
 アテナが間違ったことを教えたのか、ヒルダが激しく曲解したのか、両方か。
 つうか、本人を前にして「気が合わない」とか言うか、普通。
「フン」
 真紅のネコは湯に浮きながら、最大限の侮蔑を込めた目で湯煙の美女を睨んだ。
 いちおう吟持ってもんがあるので、睨むのは顔限定。見えちゃったものは見えちゃったが、あえて視線を外している。美しいことは美しいけれど、ほっそりとしていて妖精のようで、女性らしいオウトツさえも男としてそそられる雰囲気じゃあないあたり、「脱いだらすごいんです」を期待した身としては「チッ」ではある。
 ようは、服を着ていても着ていなくても、ヒルダは変わらない。全然変わらない。その神々しいまでの聖女っぷりも含めて、妙にイライラするんである。
 一方、ヒルダは微笑みを崩さない。
 というか、心底嬉しそうだ。
「うふふ」
「なんですか、気色悪い」
 アルベリッヒが吐き捨てると、ヒルダは心からホッとした笑顔でのたまった。
「やっと、本音を言ってくれましたね」
「はぁ?」
「アルベリッヒは心に何か秘めていても、言って下さらないでしょう? 本心を話してくれて、光栄です。お風呂効果ってやっぱりすごいんですねえ」

 アホか。

 何を言うかと思えば、この地上代行者ちゃんは。
 おめでたい。アホらしい。羞恥心もない。
 ホントに、こんなんが地上代行者でアスガルドは、地上は大丈夫なのかと、湯あたりじゃないけどくらくらしてしまう。

「ご意見申し上げれば、却下なさるでしょうが」
「前衛的な意見は、世の理解を得がたいものです」
「天然ガス売って、暖房装備を調えてくださいって」
「アスガルドの自然は、アスガルドのものですから。必要以上に採掘するのは」
「そんなこと言ってるから、暖炉のある部屋で子供が凍死するんですよ!!!」
「それも……そうですわね」
「生態系が崩れるほど近代化しようだの、ボロ儲けしたいだのは言ってないんですから。節度を守って貿易すんのも、国を守る手段ですよ。アテナだってポセイドンだって、地上に財団を持ってるでしょう?」

 話している間に、アルベリッヒは違和感を覚えた。
 今日は、なんだか会話がスムーズだ。ものすごいスムーズだ。
 ほんとうに、風呂効果なんだろうか。
 
(いや、重鎮どもがいないからだ!)

 合点して前足を打つアルベリッヒ。
 アスガルドの重鎮はひどく頭が固い。脳みそが氷結まんまDNAが受け継がれていくんじゃないかってほど固い。ヤツらは新しい試みを極端に恐れる。さきほどの天然ガスの発掘も然り。火山熱の発電もしかり。
 ビルダも自然に手をつけることに興味かないから、通る話も通らなかったのか。
 だとしたら、風呂万歳。
 ネコ万歳。

「だいたい、本音を言わないのはヒルダさまも同じでしょう。いっつも良い子ちゃんでいらして。肩、凝らないんですか」

 気分がよろしくなって、思わず口が滑った。
 あわてて前足で口を押さえるが、時既に遅し。言葉はもとにもどらない。

「そうですねえ」

 ヒルダは悠然と、たおやかに、ちょっと小首を傾げて、アルベリッヒの予想をナナメ45度外した本音をのたまった。

「アテナって、ペガサスが好きみたいなんですよね。聖闘士だからではなくて、ひとりの少女としてひとりの少年に焦がれているっていうか。ご本人には聞けないんですけど、どう思います?」

 知らんがな。
 そんなん。

「恋愛でもなんでも好きにしたらいーんじゃないですか。聖戦とやらも終わったわけですし。女神と言っても生身の人間でしょ」

 ものすごい投げやりに答えたのに、ヒルダは目をキラキラさせて「ですよね! アルベリッヒもそう思いますよね!!」とか、頷いてやがる。
 この人って雲の上の人間だから、井戸端会議もといガールズトークに飢えてるんだろうか……。

「ま、つきあってさしあげますよ。そんな話でしたら。いつでも」
「はい?」
「人間の形をしてたら、言いにくいでしょ」
「ありがとう。アルベリッヒ」

 どうしてこの人は、自分を殺そうとした人間に、こうも素直に、真っ直ぐに礼を述べることができるのだろう。
 アルベリッヒは湯の中で顔を洗った。ついでに頭も掻いた。
 つくづく、ネコの体は柔らかい。
 おまけに、何かと便利かもしれない。
 こんな笑顔が見られるなら、一生ネコでもいいか。
 そんな考えが脳裏をよぎった瞬間、どっかーんと不可視の衝撃が真紅のネコを襲った。

「うぎゃっ!」

 思わずネコ毛が逆立つ。
 と同時に、なめらかな毛並みが肌色に、短かった手足がもとに戻った。

「わっと!」

 思わずびっくり。ヒルダもビックリ。ていうか、前を隠せ。前を。

『アルベリッヒよ』

 どこからともなく、厳かな声が聞こえてきた。
 会話というよりは、脳に直接語りかけてきているみたいだ。

『お前がヒルダを裏切る日はこない。このオーディン、しかと見届けた。終生、アスガルドとヒルダに仕えるがよい』

 これが他の神闘士だったら「ははー」と平伏するところだが、アルベリッヒは立ち上がって腕をぶんまわした。

「こんな時にばっかり、コンタクトとってくんじゃねーよ!! ヒルダさまが魔の手に落ちたときにやってこいってんだ!!」

『はっはっは。威勢の良いことだ』

 神の声は消え、風呂場には一組の男女が残された。
 ヒルダは「よかったよかった」と、歓喜しているし、アルベリッヒはタオルもなくてバツが悪いし。
 この状況、他人に見られたらどう説明するんだろう?
 そういうことも含めて、やっぱりネコのままのほうがよかったんじゃないかと悩む、アルベリッヒなのであった。



 ――数日後。



「ヒルダさま。これを」
 ひとり回廊を歩くヒルダの御前に、アルベリッヒは一匹のネコを献上した。
 堂々とした体躯で、カールのかかった淡いゴールドベージュの長毛種。淡いブルーの瞳。
 ヒルダは目をぱちくりさせた。
「ジークフリートですよ」
 アルベリッヒにネコ掴みされていたときは究極に嫌そうだったが、ヒルダに抱き渡すと咽をごろごろさせてペタンとくっついてきた。
「違うと思います」
「オレにはそのものにしか見えませんけど」
 アルベリッヒが触ろうとすると、シャーッと牙を剥いた。
 この辺りは、実にジークフリートっぽい。
「ま、風呂にでも入れてやったらどうですか?」
「イヤです」
 ふわふわもふもふのネコを抱いたまま、きっぱりと拒否。
「いいじゃないですか。ネコなんですから」
「ジークフリートと、お風呂に入る理由がありません」
「おや。俺は途中で人間に戻っても平気だったのに、ジークフリートはネコでも恥ずかしいと?」
「そ、そういう意味では……」
「まあ、ヒルダさまのお手を煩わすこともないか。では、侍女にでも。こいつも汚れてますし」
「あ……!」
「おや、お嫌ですか? ずいぶん置きに召したんですね」
「……」
「ネコを」
 ヒルダは真っ赤になって、口を尖らせた。顔だけでなく、指の先までアルコールがまわってるみたいに色づいている。
「なるほどね」
 シークレットブーツ着用の本日、ニヤニヤとヒルダのつむじを見おろすアルベリッヒ。
「アテナの恋路より、ご自分の心配をなさったらいかがです? オレは止めませんけどね。あなたも生身の人間なんですから」
「な、何を言うかと思えば、戯れ言を」
 微妙にろれつの回らないヒルダを、アルベリッヒは「メルヘンですな」「若いって良いことです」「お似合いですよ」などとつつき続ける。
 本人は平静を装っているつもりだろうが、耳まで赤くちゃ威厳も説得力もない。
 年齢相応に、愛らしいだけだ。

(この女、意外にからかうとおもしろい♪)

 ちなみに、ホンモノのジークフリートは兵舎で兵士たちに稽古をつけている。
 もう半刻もすれば本人が戻ってきて、このネコが普通のネコだと気がつくだろう。

 そして、彼女は女王の仮面をかぶり、今日も祭壇に向かう。
 勇敢な勇者に焦がれる、乙女の素顔を隠して。

 それでいい。
 また、そうでなくてはならない。
 
 ならば、せめてそれまでのひとときを。
 仮面を外し、重荷をおろしてもいいんじゃないかと思う。






 
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