凍結中のサイト「雪見酒girl's talk(http://loveasgard.yukimizake.net/)」の続編など。
聖闘士星矢アスガルド編、黄金、女の子中心。捏造多め。ノマカプ推し。
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ここは黄泉比良坂。冥界の入り口。
大勢の人間が、一つの方向に足並みをそろえて進んでいる。
死者だ。死者たちの行列だ。生きた人間はサガしかいない。
デスマスクと別れたサガは、この群れを刺激しないよう、ゆっくりと流れに沿って歩いていた。
行進は、不気味なほど静かだった。苦悶に満ちた顔もあれば、安らかな顔もあるのに、皆一様に同じスピードで進んでゆく。人間にとって、死が平等である証拠だろうか。
服装こそ多種多様だが、どれもぼんやりと灰色がかっていて、死という名の染料で染め直したみたいだ。そんな群れにあって、サガの黄金聖衣は浮かび上がるように異色だ。
だが、誰も周囲を省みない。黄金に輝くサガの聖衣に注意を払う者もいない。
サガはアイオロスの小宇宙を感じる方向に、ゆっくりと進んだ。早急に走り出して悪いことはなかろうが、それは死者たちへの冒涜に思えたからだ。
しばらくして、隣を歩いていた子供が石につまずいた。死因は飢餓か戦争か。随分と身なりが貧相な子供だ。その上、片腕が無かった。人の魂はその人が思う我が身の姿が形になるから、命が尽きるずっと以前に腕を失っていたのだろう。
サガは子供を抱き起こした。大勢の死者たちが、サガと子供をゆっくりと、無言で追いぬいてゆく。
子供はうろのような目で双子座の黄金聖闘士を見上げ、「神しゃま」とつぶやいた。
小さな肩から、青白い腕が生えてきた。
「な……」
サガは短く言葉を失った。
『神様に会えたら、腕が戻ってくる』とでも言い聞かされてきたのだろうか。信じていたのだろうか。
サガは幼子の頭を撫で、心の中で『神ではないよ。聖者ですらない』と首をふった。
神のような、という代名詞を使うならば、自分より相応しい人間がいる。その男をこの世に呼び戻す為に、ここに来たのだ。
子供はそれ以上、サガに関心を持たなかった。いつしか列に戻って、無心に歩いていった。
列の斜め前方に、沙羅双樹の大木が見えた。
死者の群れは木とは反対の、大河に向かって蛇行しながらすすんでいる。
森の彼方にアイオロスの小宇宙を感じたサガは、死者の行列をそっと離れた。
近くで見ると、沙羅双樹の大木は立ち枯れていた。同じように立ち枯れた木が、行く先々にポツリポツリと立っている。荒野の枯れ木は、やがて群生して林になった。
曇天を思わせる灰色の宙のあちこちには、ふっくらとした樹の根がいくつもいくつも浮かんでいた。
「あれは、沙羅双樹ではないな。菩提樹――いや、あれこそが世界樹か」
サガは無数に浮かんでいる世界樹の一株を見据え、地を蹴って飛び上がった。
あの樹から、アイオロスの小宇宙を強く感じたのだ。
果たしてアイオロスは、木の根にとらえられていた。アテナの遠見でみたとおりだ。罠にかかった獲物のように逆さ吊りになって、目を閉じている。
サガが近付いても、微動だにしない。
だが、広い胸は微かに上下していた。
顔色も、黄泉比良坂の死者たちと違う。青白いながらも生気があり、肌が艶やかだ。生きているのだ。
サガはとりあえず巨大な根に腰かけた。地上にいるときほど重力を感じないから、宙に浮かび続けることも不可能ではない。ただ、自らの野望のために死なせた男の様子をつぶさに見たかったのだ。
「嘆きの壁の前で再会したときと、様子が違うな……」
サガは、ひとりごちた。
アイオロスには違いないが、14歳で命を落とした聖闘士ではない。
聖戦終結から何年も経っていないのに、倍も年齢を重ねた顔をしていたからだ。
30代間近の、サガと同世代にしか見えない。放っておいたら、近く老人になって朽ちてゆくだろう。
これこそが、アテナが言っていた「魂を吸い取られる」という現象なのだろう。
サガは拳をかまえ、根の中枢部に向けて小手調べのギャラクシアンエクスプローションを放った。
巨大なエネルギーの塊が世界樹を貫いたが、根は人智をこえた能力で再生してゆく。
「なんと……!」
『無駄だよ。サガ』
樹が、遙かなる頭上で無数の葉を揺らしながらざわめいた。
聞き覚えのある声。低くてよく通る声。
「アイオロス」
根に囚われたアイオロスは、相変わらず眉ひとつ動かさない。微動だにしない。樹と同化したエネルギーが、サガの脳に直接語りかけているようだ。
『世界樹は、オレの魂が作った樹木だ。樹そのものに意志はない。つまり、このアイオロスが世界樹との同化を望んでいるのだ』
「なぜ」
『きみは知っているはずだ。この樹が現世の、不毛の砂漠とつながっていることを。砂漠は拡大している。200マイル四方に水源はない。このオレの小宇宙が、あの地に暮らすことしかできない人々の糧となるならば、喜んでこの魂を捧げたい。聖戦が終わった今、このぐらいのことしかできないからな』
アイオロスは笑っていた。
サガは小さく溜息をついた。
幼少時より現人神のように讃えられてきたが、本質的に自分は俗物だ。それに引き替え、アイオロスはなんと軸のぶれない男だろう。さながら、神の申し子だ。
神は、理想のために自らを傷つけることを厭わない。自らの兵士や、自らの民の犠牲も厭わない。
アイオロスもそういう男だった。彼が教皇になっていたら、記録書の隅にも残らない脱落者たちなど、気にも留めなかっただろう。どんなにあがいても人としてしか生きられない力無き人々に、サガのような生ぬるい同情心を持たなかっただろう。そして、命令に従わない人間を、処刑などしなかっただろう。
高みに立ち、緩慢なる彼らの滅びを見おろしていたに違いない。現人神さながらに。
戦いが終わった今、神の戦士の任を解かれたアイオロスは、自らの命を砂漠に住む僅かな人の為に役立てようとしている。
生前とは、正義のベクトルが真逆だ。
だが、やるとなったら徹底してそれをする。そんなところもまた、聖者的な思考回路に違いないのだ。
「自らを弱きものたちの糧とするのは勝手だが。アテナの聖闘士としての本分を忘れて貰っては困る。射手座が継承できんだろう」
サガは、溜息混じりに囁いた。
『射手座なら。ペガサスの胸の内ひとつだ。あれが認めれば、射手座の黄金聖闘士が絶えることはないよ』
「星矢は黄金聖衣を望んでいない。自由闊達なペガサスこそ、あの少年の本分だ」
『らしいな。困ったことだ』
「困るのは、星矢よりきみだ」
『お前に言われたくない』
「それは道理だ」
サガは悪びれることなく、むしろ不敵に笑った。
大勢の人間が、一つの方向に足並みをそろえて進んでいる。
死者だ。死者たちの行列だ。生きた人間はサガしかいない。
デスマスクと別れたサガは、この群れを刺激しないよう、ゆっくりと流れに沿って歩いていた。
行進は、不気味なほど静かだった。苦悶に満ちた顔もあれば、安らかな顔もあるのに、皆一様に同じスピードで進んでゆく。人間にとって、死が平等である証拠だろうか。
服装こそ多種多様だが、どれもぼんやりと灰色がかっていて、死という名の染料で染め直したみたいだ。そんな群れにあって、サガの黄金聖衣は浮かび上がるように異色だ。
だが、誰も周囲を省みない。黄金に輝くサガの聖衣に注意を払う者もいない。
サガはアイオロスの小宇宙を感じる方向に、ゆっくりと進んだ。早急に走り出して悪いことはなかろうが、それは死者たちへの冒涜に思えたからだ。
しばらくして、隣を歩いていた子供が石につまずいた。死因は飢餓か戦争か。随分と身なりが貧相な子供だ。その上、片腕が無かった。人の魂はその人が思う我が身の姿が形になるから、命が尽きるずっと以前に腕を失っていたのだろう。
サガは子供を抱き起こした。大勢の死者たちが、サガと子供をゆっくりと、無言で追いぬいてゆく。
子供はうろのような目で双子座の黄金聖闘士を見上げ、「神しゃま」とつぶやいた。
小さな肩から、青白い腕が生えてきた。
「な……」
サガは短く言葉を失った。
『神様に会えたら、腕が戻ってくる』とでも言い聞かされてきたのだろうか。信じていたのだろうか。
サガは幼子の頭を撫で、心の中で『神ではないよ。聖者ですらない』と首をふった。
神のような、という代名詞を使うならば、自分より相応しい人間がいる。その男をこの世に呼び戻す為に、ここに来たのだ。
子供はそれ以上、サガに関心を持たなかった。いつしか列に戻って、無心に歩いていった。
列の斜め前方に、沙羅双樹の大木が見えた。
死者の群れは木とは反対の、大河に向かって蛇行しながらすすんでいる。
森の彼方にアイオロスの小宇宙を感じたサガは、死者の行列をそっと離れた。
近くで見ると、沙羅双樹の大木は立ち枯れていた。同じように立ち枯れた木が、行く先々にポツリポツリと立っている。荒野の枯れ木は、やがて群生して林になった。
曇天を思わせる灰色の宙のあちこちには、ふっくらとした樹の根がいくつもいくつも浮かんでいた。
「あれは、沙羅双樹ではないな。菩提樹――いや、あれこそが世界樹か」
サガは無数に浮かんでいる世界樹の一株を見据え、地を蹴って飛び上がった。
あの樹から、アイオロスの小宇宙を強く感じたのだ。
果たしてアイオロスは、木の根にとらえられていた。アテナの遠見でみたとおりだ。罠にかかった獲物のように逆さ吊りになって、目を閉じている。
サガが近付いても、微動だにしない。
だが、広い胸は微かに上下していた。
顔色も、黄泉比良坂の死者たちと違う。青白いながらも生気があり、肌が艶やかだ。生きているのだ。
サガはとりあえず巨大な根に腰かけた。地上にいるときほど重力を感じないから、宙に浮かび続けることも不可能ではない。ただ、自らの野望のために死なせた男の様子をつぶさに見たかったのだ。
「嘆きの壁の前で再会したときと、様子が違うな……」
サガは、ひとりごちた。
アイオロスには違いないが、14歳で命を落とした聖闘士ではない。
聖戦終結から何年も経っていないのに、倍も年齢を重ねた顔をしていたからだ。
30代間近の、サガと同世代にしか見えない。放っておいたら、近く老人になって朽ちてゆくだろう。
これこそが、アテナが言っていた「魂を吸い取られる」という現象なのだろう。
サガは拳をかまえ、根の中枢部に向けて小手調べのギャラクシアンエクスプローションを放った。
巨大なエネルギーの塊が世界樹を貫いたが、根は人智をこえた能力で再生してゆく。
「なんと……!」
『無駄だよ。サガ』
樹が、遙かなる頭上で無数の葉を揺らしながらざわめいた。
聞き覚えのある声。低くてよく通る声。
「アイオロス」
根に囚われたアイオロスは、相変わらず眉ひとつ動かさない。微動だにしない。樹と同化したエネルギーが、サガの脳に直接語りかけているようだ。
『世界樹は、オレの魂が作った樹木だ。樹そのものに意志はない。つまり、このアイオロスが世界樹との同化を望んでいるのだ』
「なぜ」
『きみは知っているはずだ。この樹が現世の、不毛の砂漠とつながっていることを。砂漠は拡大している。200マイル四方に水源はない。このオレの小宇宙が、あの地に暮らすことしかできない人々の糧となるならば、喜んでこの魂を捧げたい。聖戦が終わった今、このぐらいのことしかできないからな』
アイオロスは笑っていた。
サガは小さく溜息をついた。
幼少時より現人神のように讃えられてきたが、本質的に自分は俗物だ。それに引き替え、アイオロスはなんと軸のぶれない男だろう。さながら、神の申し子だ。
神は、理想のために自らを傷つけることを厭わない。自らの兵士や、自らの民の犠牲も厭わない。
アイオロスもそういう男だった。彼が教皇になっていたら、記録書の隅にも残らない脱落者たちなど、気にも留めなかっただろう。どんなにあがいても人としてしか生きられない力無き人々に、サガのような生ぬるい同情心を持たなかっただろう。そして、命令に従わない人間を、処刑などしなかっただろう。
高みに立ち、緩慢なる彼らの滅びを見おろしていたに違いない。現人神さながらに。
戦いが終わった今、神の戦士の任を解かれたアイオロスは、自らの命を砂漠に住む僅かな人の為に役立てようとしている。
生前とは、正義のベクトルが真逆だ。
だが、やるとなったら徹底してそれをする。そんなところもまた、聖者的な思考回路に違いないのだ。
「自らを弱きものたちの糧とするのは勝手だが。アテナの聖闘士としての本分を忘れて貰っては困る。射手座が継承できんだろう」
サガは、溜息混じりに囁いた。
『射手座なら。ペガサスの胸の内ひとつだ。あれが認めれば、射手座の黄金聖闘士が絶えることはないよ』
「星矢は黄金聖衣を望んでいない。自由闊達なペガサスこそ、あの少年の本分だ」
『らしいな。困ったことだ』
「困るのは、星矢よりきみだ」
『お前に言われたくない』
「それは道理だ」
サガは悪びれることなく、むしろ不敵に笑った。
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