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凍結中のサイト「雪見酒girl's talk(http://loveasgard.yukimizake.net/)」の続編など。 聖闘士星矢アスガルド編、黄金、女の子中心。捏造多め。ノマカプ推し。
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4話完結の連載。

「雪見酒girl's talk」で2008年に書いたCoin laundry babyの第3話で完結編。
氷河×絵梨衣。捏造過多。


乳児の頃の絵梨衣がコインランドリーに捨てられてた設定になっています。

絵梨衣の立ち位地は
1は、大学入学を控えた高校生 星の子学園在住
2は、ロシア語を専攻する大学生。バイト先の花屋に下宿
3は、某新聞社文化部所属のジャーナリスト。モスクワ支局勤務。モスクワで一人暮らし。








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「おかしいと思いませんか?」

 少しの隙間でも寒くて眠れないから、しっかりとカーテンを閉じた。
 もう片方の手は、携帯電話を握りしめている。
「なんで同じ国に暮らしているのに、日本にいた時より時差が開いてるのかしら?」
 電話相手は、超絶クールに「さあ?」と流してくれた。
 辺境のシベリア暮らしが長かった彼は、なぜか上流階級を思わせるきれいなロシア語を話す。日本語にはない音域に惹かれてこの言語を専攻してしまったぐらい、彼の話す言葉は美しいのだ。
 だけど、孤児の絵梨衣が学ぼうと思ったら、奨学生になるしかなかった。がんばって勉強をして、大学を主席で卒業して、某新聞社に入社した。
 今は、モスクワ支局に配属されてジャーナリストとして働いている。
 
「氷河さんに近付きたくて勉強したのに、かえって住処が遠くなるっていったい」

「それ、年間330回ぐらい聞いてる」
 低い、くぐもった声が呆れている。
「だって、口癖だもん」
 絵梨衣は口先を尖らせた。
「氷河さんは聖闘士だから、距離なんて関係ないと思ってたのよ。でも、関係あったね。おやすみなさいの電話が、あなたのモーニングコールになるって情緒がないわ。わたしががんばったなぁとか疲れたなぁってひとりでベッドに入る頃、あなたはサァ今日も元気に修行しようって起きるのよ。すれ違いを感じてしまう」
 言ってしまって、ハッとした。
 時差の話は毎日だけど、ネタのつもりでいた。
 愚痴にするつもりなんて、なかったのに。
「絵梨衣?」
 遠い声の、トーンが少し落ちた。
「ごめんなさい。わたしとしたことが、ちょっと疲れてるのかも。眠ったら、元気になるわ。おやすみなさい」
 絵梨衣は携帯の電源を切り、電球につないだ紐を引っ張った。
 途端、天井の高いアパートが、ひんやりとした闇に包まれた。
 ヒーターは、外出時もつけっぱなし。
 決して小さくないモーター音に、わけもなく孤独を感じた。

 ひとりきりの闇の中で「あーあ」と、つぶやいた。

 疲れている。そう、確かに疲れているのだ。
 ここのところ、寝不足のせいか頭が痛い。
 だったら、眠って解決しよう。
 絵梨衣はベッドに潜り込み、冷たい毛布の中で背中を丸めた。
 しばらくうじうじとすっきりしない時間をやりすごし、やがて淋しくまどろみに落ちた。


 それから、どのぐらい経っただろう。
 額に指が触れた感触で、目が覚めた。
「ひょーが…さん?」
 寝る前に因縁をつけてしまった恋人が、なぜかベッドに腰かけている。絵梨衣のひたいに、雪焼けした逞しい指をあてて。
「寝て」
 あわてて身を起こそうとする絵梨衣を、静かな声が制した。
 冷静だが妙に強制力のある響きに、絵梨衣はぱちくりとまばたきをした。
「ヒーリング、してるから」
「ヒーリング?」
「そう。やっぱり、風邪をひいていたんだな」
 光源はヒーターの電源だけの薄闇の中で、氷河が小さく微笑んだ。
 彼の指先が微弱に輝いた。絵梨衣はまぶしさにまばたきをした。
 なんの技かよくわからないけど、気持ちがいい。
「……氷河さんはすごいなぁ」
「なにが?」
「なんでもできるし、なんでもわかるんだもの」
「まさか。魔法使いじゃあるまいし」
 ヒーリングとやらが終わったのか、一旦指を離し、手のひらを広げて髪を撫でてくれた。 
「今日は、なんの取材だった?」
    氷河の低い声が、優しく問いかけてきた。
 言葉も態度もこれ以上ないくらい優しいけれど、沈黙や強がりは許さない。
    絵梨衣が何かかかえていて、でも自分からは話せない、何でもないと虚勢を張っているとき、氷河は必ずこういう風に問いかけてくる。
    絵梨衣が自分の力だけで頑張るべきときには黙って見守ってくれる…というか、そっけないほど全く助けてくれないけれど。
 絵梨衣は、消えて入りそうな声で呟いた。
「……ストリートチルドレン」
 髪を撫でていた手が、そのまま絵梨衣の体をひき寄せて、強く強く抱きしめてくれた。
 絵梨衣も、こらえきれずにすがりつく。
 昼間は一滴も流れなかった涙が、ほろほろと頬を伝わった。

 ジャーナリストにあるまじき適正のなさだが、絵梨衣は貧しい子供の記事が苦手だ。
 記者としては、賞やファンメールをいただいたりして、それなりの評価を得ていると思う。
 孤児育ちが共感を得るのか、割と労せず本音を聞きだすこともできる。
 だけど、その分深くシンクロしてしまうのだ。
 絵梨衣は記事をおこしながら「クールに、クールに、クールに」と、自らに呪文をかける。
 淡々と事実だけを、解りやすく、誠実に、と、念じながらキーボードを叩いている。
 決して、センセーショナルな文章にしてはならない。悲惨な現状が逆に伝わらなくなる。なにより、心を開いてくれた子供たちに失礼だ。
    けれど、無味無臭の記事であってもならない。情報が埋もれてしまう。そうなったら、露骨に悲劇を嘆いて煽る三文記事以下だ。
 こんなだから記事はたいそうにクールに仕上がるけど、本人がちっともクールじゃなくなる。
 平衡感覚がおかしくなったり、食事の味や温度を感じなくなってしまう。
 ヒーターがつけっぱなしの暖かい部屋で、暖かい紅茶をのみながら、日本から持ってきた毛布にくるまりながら、考えてしまう。
 今日会った子供たちは、寒くて不衛生な下水管の中で生活している。
 明日も、明後日も、明々後日も、ずーっと、あそこにいる。

 次は会えるの? 次に尋ねた時、誰が生きていて、誰がいなくなっている? 

 絵梨衣は、声を殺して泣いた。
    絵梨衣も孤児だけど、星の子学園にはちょっとした風邪から肺炎になって死ぬ子なんかいない。学校に行ってない子も、お風呂には入れない子もいない。麻薬しか娯楽がない子も、娼婦しか選べる職業がない子もいない。
    同じ孤児だけど、全然違う。
    どうしたらあの子たちは、屋根のある家に、暖かいスープに、就労につながる教育ににありつけるのだろう。
    絵梨衣は泣いた。
 無力な自分を噛みしめるように、強く奥歯を噛んで泣いた。

「ひとつ聞いていいか?」

 しばらくして、強く抱きしめてくれた腕がやや力をほどいた。
 涙に濡れた目で、彼を見上げる。

「今の仕事、いつまで続ける?」
 絵梨衣はパチクリとまばたきをした。
 涙の粒で、視界はぼやけたままだ。
「やめた方がいいってこと? メソメソするから向いてない?」
 自然と声が掠れて、指先が震えた。
「違う」
 だが氷河は、即座に、きっぱりと否定した。
「手伝ってもらいたいことがある」
「?」
「孤児院を、開くことにした」
 絵梨衣の悩みの解決策を、いきなり提示された気分だ。
  「孤児院を、氷河さんが?」
    絵梨衣は何度かまばたきした。氷河は少し背を屈めて、絵梨衣の目頭を指でなぞった。
「聖闘士の?」
「いや。素質がある奴がいたら鍛えるけど。そっちはメインじゃない」
「…」
「君が仕事に誇りを持っていることも、大学に恩義を感じていることも知っている。だが、君の助けがほしい。いつか、シベリアに来てくれないか?」
 絵梨衣は、すいこまれるように愛しい人の目をみつめた。
 よく晴れた冬の空みたいな青だ。
 どこまでも澄んでいて、迷いもなくて。
 夢見勝ちな少女時代に一目惚れしたぐらいだから、氷河はすこぶる美形だ。星の子学園の女の子たちに「王子様」と囁かれ続けて十余年。金色の髪に、涼しげな青い目、クールな振る舞いだから、ダッフルコートよりも王冠の方が似合うかもしれない。
 だけど、何年もつきあってなお氷河に見惚れてしまうのは、容姿が整っているからだけではない。
 立つ、座る。歩く。振り向く。笑う。メモをとる。本を開く。そういう日常的な一連の動作に、一本芯が通っているのだ。よどみなく、流れるようだ。それでいて、女性的なたおやかさはない。非常に男性的だ。しいて例えるならば、ありえないほど攻撃的なプログラムを軽々とこなして観客を魅了する、アイススケーターやバレエダンサーを彷彿させる。
 生き方の真摯さが、そのまま立ち振る舞いに反映されている。
 言葉が少ない分、態度が雄弁なのかもしれない。
 そんな彼が決意を言葉にしたら、もはや実行しかない。
 死なない程度には身の危険が日常的な今より、苛酷な人生が待っている。
 なんてビターなプロポーズだろう。
 だけど、絵梨衣は嬉しかった。
    育成歴的に子供慣れしているし、紛争や貧窮や深刻な家庭内暴力で傷を負った子らの養育が一筋縄ではいかないことも、現場で知っている。というか、五臓六腑に染みている。どうしたら心を開いてくれるだろうと、あらゆる角度から分析する作業が好きだったりもする。
 ジャーナリストと、孤児院のおかみさん。向き不向きでいったら、向いているのはおかみさんかもしれない。
 だけど。
「返事は、いつまでにしたらいいの?」
 氷河が氷河だから、いい加減な返事はできない。したくない。
「何年でも。ゆっくり考えればいい。10年後に断ったっていいさ。絵梨衣の人生なんだから」
 絵梨衣はまばたきをした。まつげがパチッと鳴って小さな水滴が頬を伝った。
 絵梨衣が頷いても断っても、たったひとりでも、その仕事をやり遂げるつもりなのだろう。普通の顔をして。「当たり前」に。
 強いな、と思う。
 この人は、なんて強くて大きいんだろう。
「今日は?」
 この話はここまで、とばかりに、氷河が話題を変えた。
「はい?」
「今日の仕事は、何?」
    急にふられて、絵梨衣は子首をかしげた。今日…明日かな?  いや、今日か。
「あ。今日の取材ね。対談だよ」
「対談?」
「ええ。往年のプリマドンナ、アレクサンドラ・パーヴロヴァと、彼女に影響を受けた若きフィギュアスケーターたちが対談するの」
「へぇ。アレクサンドラ・パーヴロヴァか」
 氷河の声のトーンが、先ほどより少し柔らかくなった。
「知っているの?」
「マーマが、世界一のプリマだって絶賛してた」
「ん。お目が高い!  連邦時代の筆頭よ」   絵梨衣も気をとり直し、目頭をぬぐってから、電気をつけた。
 見上げた掛け時計が、午前1時をさしている。
「氷河さん、けっこうバレエ詳しいよね。この雑誌、読む?」
 絵梨衣は、デスクに山積みにした資料の中から、何冊か雑誌を手渡した。
「へえ、年代物だな」
「連邦時代の雑誌って、貴重なのよ」
「ありがとう。読ませてもらおうかな」
「お茶、煎れてくるわ」
 備え付けの小さなキッチンに向かうと、さっそくペラペラとページをめくる音がした。
「お母さまが、バレエをたしなんでいらした頃のじゃないかな?載ってたりして?」
「そうしたら、会社からでも電話かけてくるだろ?」
「しませんよ~。そんな公私混合」
「プロになる前に、怪我で引退してるんだ。普通にないだろ」
「あ、道理で。それらしいナターシャさんがいなかったわけだ」
「……探したっていうか、調べたんだ」
   さすがの氷河が、若干あきれた。
「氷河さん、お母様にバレエは習わなかったの?」
「オレが? まさか」
 お湯を沸かして紅茶を煎れている間、氷河はとてもリラックスした様子で雑誌を眺めていた。
 近い将来、彼の隣でこんな風に過ごす毎日が訪れるのだろうか。
 プロポーズの言葉を聞いたばかりの乙女としては、未来を夢想せずにはいられないシチュエーションだ。
「紅茶に添えるジャム、苺とコケモモどっちがいい?」
 ひょいとキッチンから顔を出すと、愛しい人は雑誌のあるページを放心したように凝視していた。
「なぁに? 何か、気になる記事でもあったの?」
「マーマ……?」
「はい?」
 絵梨衣は、吸い寄せられるように彼の隣に座った。そして、彼が指差すモノトーンの写真に目を走らせる。
 それは、本日の取材相手、往年のプリマドンナが、無名だった頃の写真だった。
 白黒写真だが、妖精を思わせる可憐さは十分に伝わってくる。彼女の両隣も、たいそうな美少女たちで、それぞれ首にメダルをかけている。
たった3センチ四方の小さな写真の、右隅の少女を氷河は「母」と呼んだ。
 彼が生まれる前に世に出た、古ぼけた雑誌の記事をさして――。


 

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